直木賞受賞作「ファーストラヴ」読んでみた。

島本理生さん著の第159回直木賞受賞作「ファーストラヴ」

2003年に『リトル・バイ・リトル』が芥川賞候補になったほか、同作品で第25回野間文芸新人賞を史上最年少で受賞するなど、確かな実力をもとに数多くの作品を発表し続けた結果、「ファーストラヴ」が第159回直木賞受賞作に輝いた。

彼女の作品は実写映画化もされた「ナラタージュ」や、「夏の裁断」「Red」「わたしたちは銀のフォークと薬を手にして」等、登場人物らの繊細な心情を細かく綴られる作風が、特徴的。そして、父親の存在が印象に残るものが多数見受けられる。「父親」という存在を通してヒトの人間関係の基盤となる家族、そしてそれをトレースさせて広がる、恋愛や友人、仕事などの人間関係を描き出す。特に作風として、恋愛小説というものにカテゴライズされる作品が多いが、今回の「ファーストラヴ」はミステリー作品だ。簡単なあらすじを紹介しよう。

あらすじ

父親を刺殺した女子大生、環菜は警察の取り調べ時に警察にこう言った「動機はそちらで見つけてください」。刺した彼女自身、動機が分からないと言う。

主人公は臨床心理士の女性、由紀。優しい写真家の夫と息子の幸せに暮らしている。そして、夫の義弟の迦葉(かしょう)は環菜の弁護人となった。同じタイミングで、由紀はこの事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、取材を始める。由紀と迦葉で環菜、そして環菜を取り巻く母親、友人などに面談をし、由紀は自己の夫や義弟、母親など微妙な人間関係に悩まされながらも、環菜と彼女ら家族の持つ真相を追究していく。

母性とは?父性とは?家族はどんな事があっても愛があるのか。

昔と今の家族のあり方が変わってきているように、時代と共に、家族というものに対する、意識も変わっていくべきなのに「家族はどんな酷いエビソードがあっても愛があり、唯一無二の存在」という規定概念に疑問視するテーマである。ヒトは0歳から3歳の間で根本的な思考や本質の性格がほぼ完成すると言われている。その際に、親に虐待を受けた子供や、親が離婚して再婚した子供、親に兄弟と差別されて育った子供、弱い親の為に親の世話をした子供は、大人になるとどうなるのだろうか?正常な愛を将来は育む事はできるのだろうか。読みながら一度考えて欲しいテーマである。

臨床心理士の由紀

彼女のしている、仕事、臨床心理士というものに興味深くなれるきっかけにもなった。
例えば、拒食症の若者がいる、リストカットをする若者がいる、自分自身では何故するのか分からないけれどすると安心するから自傷行為をしてしまう。心療内科で精神科医が投薬をしても、薬はその場しのぎだ。根本的な治療にはならない。そんな考え方の偏りを補正し、整理し、根本的な考え方を変えていくのが、臨床心理士だ。
ガンも悪い部分をお腹を開けて取り出す手術と、投薬治療がある。それと同じで、心の根本的な治療も、心の開けたくない見たくない場所と向き合って、自分と向き合う方法と、投薬治療がある。手術はお腹を開く時もその切り口が癒えていく過程も痛い。辛い。
心の奥底に溜まっている、見たくない気持ちの悪いものを心の開くないところを開いて向き合い、取り出し、その切り口が癒えていく過程もやはり辛い。
それを気づかせて、頭の中の混乱を整理し、本来の自分を取り戻すようにしていくという、人の人生を切り開く事のサポートをしてくれる仕事である。
女子大生の環菜も由紀からふと質問された事をとっさには返答できなかったが、反芻して、よく考えると答えがぱっと出てきたりする場面も多かった。

環菜の家族

ちなみに、本書のあらすじにも記載あるが、環菜の母親は検察側の証人となった。何故、自分の生きている娘の証人ではなく、亡き夫の証人となったのか。それもまた、読み解いていくと、この家族に隠された闇が明るみになる。彼女らの生活環境で苦しみ、心で泣いていたのは家族みんなだったのか、それとも環菜だけだったのか…

ラストの法廷劇に心打たれる

最後に、由紀や迦葉が奔走し、そして環菜が段々自分の動機というものが何かが分かり始めた時に、刑事裁判が行われた。迦葉の弁護する言葉や、弁護側・検察側の証人の話。そして、現在は裁判員制度なので、一般の人の心を揺さぶる証言がキーとなるので、その人々の心情にあてて鮮烈な闇を公の場にする機会である。そこで、環菜のこれからや、この事件の振り返りが全て集約されている。手に汗握り、自分も傍聴席に座っているような緊張感で一気読みしてしまった。

感傷的で、重いテーマだが、子を持つ親や、家族関係に悩む若者、そして、家族はこうあるべきとと思っている年齢が高めの方にも読んで欲しい。若い島本理生さんの視点でないと描かれることの出来なかった話だと思う。作中、弁護士の迦葉に対し環菜が言った「男メンヘラ」。その言葉が何故か私は心に残る。社会人として一人前で堂々としているのに、なのに、そういった小さな頃から抱え込んだトラウマ部分が見え隠れする人は沢山いるものだ。そんなに別世界の話では決してない。人間関係が段々と変わってきた、現代社会にぴったり合った作品だと思う。

是非読んで欲しい。

by 制作担当みやこ